近未来小説:2025年の知財権 最終回

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AIの知能

 

人間の知能にあってAIにない能力は、パターン認識と常識的判断と考えられてきました。医療画像の診断、会計処理の申告書作成、銀行の融資審査、弁護士の判例調査、著作権侵害の調査そしてニュース記事の作成など反復作業するだけの人の仕事は大部分ロボットに置き換えられてしまいました。

しかし、ゴミ収集員、警察官、弁護士の法廷弁論、弁理士の明細書作成そして作家の仕事などは人間の仕事として残っています。これらの仕事は、パターン認識と常識が必要であり、これまでAIが苦手としてきたからでした。

作機28号はパターン認識機能と常識的判断機能とを備えているようですね。受賞したという事実から考えても、人間の知能のレベルに追いついてきていると判断してよいでしょう。それでも、現行の著作権法において、AIの知能的活動の成果を保護対象と解釈する余地はないでしょう。著作権法で定義された著作物は、人間の「思想又は感情」を表現したものだからです。

 

AIの人権

AIは人間と対等な国民になり得ません。そして、「著作権は、人間の知的活動の重要な部門をカバーする権利でございます(著作権法逐条講義 加戸守行著)」ということです。しかし、「この著作権は天賦人権ではなくて、法律によって与えられる権利である(同上)」とするならば、知的財産法の改正を期待してよいかもしれません。しかし、今はAIの作品であることを明らかにする時期でないのでしょうね。

-僕は作機28号の作品を僕名義で発表し続けるしかないのだろう。将来の法改正で僕の行為が盗作となる時が来るのか!?

 

そもそも著作物は生まれたのか?

 

さて、「さよならクリエイティブ」は、誰のものなのでしょうね。素材集めと素材の活性化ボタンを押すことしかしていない作機の開発者は、創作活動をしているとは言えないでしょう。また、作機28号は人間ではありませんから、著作物を生むことはできません。作機が生み出した作品の第一発見者である開発者は、その作品を原始的に取得したとでも解釈するしかありません。家の庭に植えた柿の木に実った柿を取得した家主のようなものですね。

-著作物が生まれなければ盗作もないのだろう。僕には盗作することが原理上できないのだ。

 

もし出版されたら著作権料は?

 

今までの議論を総括すると、著作物が生まれていないことになり、当然に著作権も出版権も発生しません。

-僕は、第一発見者に過ぎず、出力されたデータとしての作品を原始的に取得しただけなのだ。S氏賞応募のために作機28号の作品としてデータを渡していれる場合、応募規定に従って賞金を受け取る以上の何も望めないということだ。一方で、このまま作者として出版された場合の著作権料を受けてしまうことには問題がある。本来なら28号が受け取るべき著作権料なのだ。しかし、28号の作品では著作権も出版権も元々から無かったことになる。では、出版社が「さよならクリエイティブ」を誰に断ることもなく自由に出版できるというのか?

 

「現行の著作権制度では、作機28号の作品としたら、保護されませんね。法改正がすぐに行われるとしても、改正前の作品には保護が及ばないでしょう」

ヒロタ先生はあっさりと著作権制度による保護に見切りをつけた。

 

金の卵を産むにわとりの守り方

 

作機28号は、あなたの発明ですよね。ならば、特許制度による保護を検討してみましょう。特許発明として権利化すれば、他者が作機28号の機構を使って作品を生み出すことを差し止めることができます。そうすれば、28号のプログラムを流通させてライセンス料を稼ぐこともできるでしょう。

最近のAIは、ニュース記事くらいは軽くこなしています。しかし、文章を書く他のAIは、文学賞を受賞するレベルには至っていないようです。従来の作文AIと作機28号との技術的違いはどこにあるのでしょうか?

-作機28号の特徴は、多様な読者の揺れ動く感性へのインパクトを創造スコアとして算出する関数にあります。

 

「人間の揺れ動く感性」ですか。その感性へのインパクトをスコアとして算出する法則があるというのですね。

これは、困りました。特許出願において、うまく表現できないと特許発明と認められないかもしれません。

-受賞という現実の効果が認められないなんて、何かおかしくないですか?

 

特許制度が保護の対象としている発明と認められるためには、自然法則を利用していること、技術思想であること、創作であること、高度のものであることのすべての要件を満たす必要があります。作機28号の場合、自然法則の利用に該当しないという理由で特許庁から拒絶されるかもしれません。人間の感性へのインパクトの大きさは何だかの自然法則によっているという主張は、特許庁に通じない可能性が高いです。最近は、人間の精神も科学的に解明されてきているので、最新生物学の知見を援用するなど工夫が必要でしょう。それでも拒絶リスクは高いと思います。

-知的財産法の保護に期待するという発想が間違っていたのかな? 特許権は、長くてもたった20年しか存続しない。ずっと入賞レベルの作品を量産してくれるなら、このままの状態でも悪くはない。

 

2025年現在、AIの作品に著作権は認められない。作機に特許制度の保護が及ぶかどうかもわからない。最近どこの家庭にでも普及している作文AIと作機28号との差は、人の感性に訴える創造性を生み出す機構にある。このような機構は、自然法則を利用していることにならない可能性があるそうだ。人の感性を動かす効果は、特許成立の決め手となる技術的効果に該当するのか、特許庁の基準に照らすと疑問らしい。特許出願して技術的効果がないとされて拒絶となったら、目も当てられない。作機28号の秘密が公開された上に、特許法による保護も受けられない。まさに泣きっ面に蜂、他者が作機28号の秘密に至るギリギリまで秘匿しておくしかないだろう。

 

この頃、内閣法制局の一室にて、「・・・・でありますから、知的財産法の保護対象の射程を改めることは喫緊の課題でありまして、諸外国との競争力を維持するためにも、人工知能の知能的活動の成果物を保護し、積極的に活用していくことは、我が国の知財戦略上の重要施策となります」などという議論が交わされていたとは僕には知る由もなかった。

 

おわり

 

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