(これは、次世代知的財産制度が時代に追いついていけなかったときを想定した架空の物語です。)
著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
_____著作権法2条1項1号
保護を受ける著作物 日本国民(わが国の法令に基づいて設立された法人及び国内に主たる事務所を有する法人を含む。以下同じ。)の著作物
_____著作権法6条1号
2025年、知的財産法は、改正が繰り返されながらも、保護対象とする知的財産とは人間の知能的活動によって生み出された成果物であるというスタンスを未だ維持していた。
受賞
S氏賞を受賞してしまった。
S氏賞は、SF小説の大物作家S氏へのレスペクトから開催された賞である。10年前の応募規定から「人間以外(人工知能等)の応募作品も受付けます」の一文が付け加えられていた。
今回の受賞作「さよならクリエイティブ」は、実は開発中の作機28号の作品なのだ。作機は、AI(人工知能)であり、作家の知能を目指して育成したプログラムだ。作機のクリエイティビティを試すつもりで毎年応募していた。考えることがたくさんあって、僕が書いたことにしていた。まあ、作機が書いたことが明るみになっても応募規定の一文のおかげでお咎めはないだろう。
一体「さよならクリエイティブ」の著作権は誰のものなのだろう?
僕の行為は盗作なのだろうか?
2015年の作機
作機0号を作った頃、世の中はAIブームに沸いていた。
「2045年には人間の知能を超えるAIが誕生する」といった話の本がベストセラーになったり、東京大学の入試に受かるAI(東ロボくん)のプロジェクトが注目されたりした。そんな空気の中でS氏賞の応募規定に例の一文が加わったのだ。まだ、定型文しか自動作成できなかったが、小説風の文章パターンを放り込んで、なんとか作品を生成させて、応募だけはした。
2020年の作機
東京オリンピックブーム直前の大騒ぎの中で、東ロボくんが早稲田大学の入試に受かったことが地味に報道された。なんとか、稲(とう)ロボくんのレベルまで成長していたのだ。AIの技術はそれなりに進化を遂げていたし、進化の速度が加速していることを肌で感じていた。その頃僕が育成した作機17号は、随筆風に日常を語るくらいは何とかこなすようになっていた。
(次回「2025年の作機」へ続く。)