知財業務の未来 の記事一覧

ChatGPTの相棒適格性

覚えたことは忘れない。裁判例や先行技術文献をすべて覚えていてくれて、必要なときに正確に提示してくれる。というようなイメージが古典的なコンピュータのイメージだったと思います。そのイメージの相棒をChatGPTに期待すると残念な事態に遭遇します。

実在する特許発明の先行技術探索をChatGPTに依頼する質問をしたところ、重要な先行技術文献を文献番号と共に回答してくれたと思ったら、実在しない文献であってChatGPTが生成した質問の趣旨に最適化した創造物に基づく回答であったという話を以前にしましたが、アメリカの裁判で過去の判例をChatGPTに調べさせそれをそのまま法廷に提出した残念な弁護士がいたそうです。もちろん法廷で調べたらそんな判例はなかったということで問題になったそうです。

相棒AI

なぜ嘘をつくのか、究明してみました。

 

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プロンプトエンジニア適格者(2)

GPT4が、司法試験の模擬試験で、受験者の上位10%に入るスコアを叩き出したという話をご存じの方も多いと思いますが、どのようなプロンプトで達成したのか興味深いところです。この話のソースであるOPEN AIのテクニカルレポートには公表されていないようですが、ステップバイステップで答えに近づく”few-shot prompt”というスタイルであったと思われます。

つまり、プロンプトエンジニアに導かれて、GPT4がたどり着いた結果が上位10%のスコアというわけです。試験問題を提示して「これを解いてください」では問題解決にたどり着けない、と思われます。

前回の質問「どのような人がprompt engineer適格者なのか」対するChatGPTの回答に「問題解決能力」がリストアップされて、そこに質問「ChatGPTは問題解決能力をもっていないのですか」を続けたところ、「GPTの訓練データや設計原理に基づく限りでは、完全には解決できない可能性があります。」と謙虚な回答が返ってきました。

GPTの設計原理の限界をChatGPTから引き出してみました。

質問1:GPTの設計原理を教えてください

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プロンプトエンジニア適格者

1.弁理士は、prompt engineer 適格者ではないか

弁理士は、テキスト化された事実についての表現から要件に当てはまる部分を抜き出し、抜き出した部分を要件に当てはめて記述をする訓練を積んでいます。

prompt engineering のコツのひとつは、記述させたいことの要点をステップバイステップでAIに理解させた上で、それらの要点をまとめた回答を生成させることですが、こういう設計思考は弁理士が事案を理解して起案する思考と相性がよいと考えられます。

要件当てはめの弁理士能力は、AIの能力と被るところなので、AIに取って代わられる職業の上位に弁理士が挙げられることがあるのも頷けます。

AIとプロンプトエンジニア

2.ChatGPTは、弁理士のことをどのように認識しているのか

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ChatGPTを知財業務に活用できるか

ChatGPTのような進化したAIの出現をチャンスと捉える方々に向けてのお話しです。

ChatGPTの情報捏造問題

ChatGPTに実際に存在する特許の進歩性を検討させたところ、実在しない特許文献を捏造して回答してきた話を以前しました(chatGPTを試す)。特許文献DBに格納された情報を知識化したChatGPTならば、特許文献情報を捏造するようなことはなくなるんじゃないか、と考える人が多いようです。

実際に存在する特許文献を根拠に進歩性の判断をして欲しいので、これで解決するなら素晴らしいことです。しかしながら、ChatGPTのようなLLM(大規模言語モデル)の知識は、従来のDBとは異なる方式で格納がされており、ここに課題があるように思います。

課題は従来型DBとの連携

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chatGPTを試す(2)

前回、chatGPTとの質疑応答を試した結果として、以下のようなことが分かりました。

<前回の検証結果>

実際には存在しない技術文献を根拠に正解っぽい回答を提示してくる。手の込んだ文献番号と文献タイトルを提示しているので、実際にDBをサーチしてみないと、本当にそんな文献が存在していると騙されてしまう。

事実との整合性よりも質問に対する回答の正解っぽさを追求しているようなある種の「創作」をするchatGPTですが、米国では「AIが自動生成したモノ」の著作権登録のガイドラインが発表されたようです。登録申請の際に「AIが自動生成した部分」と「人間が創作した部分」を分けて明記するよう求めるそうです。

なるほど。chatGPTを使った部分を自己申告させるというわけです。米国の判例が積みあがるのが楽しみです。

私の記憶によれば、米国の法改正で何十年も前に著作権マーク「©」が必須ではなくなったのですが、著作権侵害訴訟を起こすには著作権局への登録が必要です。

質疑応答2-1

これを題材にchatGPTとの質疑応答を試してみました。

<質問2-1>

米国でいつから著作権侵害訴訟の提起に著作権局への登録が必要になったのですか

<回答2-1>

米国における著作権侵害訴訟の提起に著作権局への登録が必要になったのは1978年の著作権法改正によってです。この改正によって、著作権の保護期間や著作物の種類が変更され、著作権侵害訴訟の提起においても著作権局への登録が必要になりました。著作権局への登録は、訴訟を起こす前に行われることが一般的で、登録が完了すると、著作権主権者は法的保護を得ることができます。ただし、登録をしなくても著作権は成立しますが、訴訟を起こす場合には登録が必要になることがあります。

質疑応答2-2

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chatGPTを試す

少し長くなりますが、chatGPTに下記の質問をしてみました。

質疑応答1

<質問1>

特許第4734471号の「動画を再生するとともに、前記動画上にコメントを表示する表示装置であって、 前記コメントと、当該コメントが付与された時点における、動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間とを含むコメント情報を記憶するコメント情報記憶部と、 前記動画を表示する領域である第1の表示欄に当該動画を再生して表示する動画再生部と、 前記再生される動画の動画再生時間に基づいて、前記コメント情報記憶部に記憶されたコメント情報のうち、前記動画の動画再生時間に対応するコメント付与時間に対応するコメントを前記コメント情報記憶部から読み出し、当該読み出されたコメントを、前記コメントを表示する領域である第2の表示欄に表示するコメント表示部と、を有し、 前記第2の表示欄のうち、一部の領域が前記第1の表示欄の少なくとも一部と重なっており、他の領域が前記第1の表示欄の外側にあり、 前記コメント表示部は、前記読み出したコメントの少なくとも一部を、前記第2の表示欄のうち、前記第1の表示欄の外側であって前記第2の表示欄の内側に表示する ことを特徴とする表示装置。 」の先行技術文献を教えて

chatGPTの回答は以下の通り

<回答2>

特許第4734471号の先行技術文献は、以下の文献です。

US Patent Application Publication No. 2006/0098466A1, “System and method for overlaying comments onto a video display”, filed on November 3, 2004.

US Patent Application Publication No. 2006/0028904A1, “Method and apparatus for displaying commentary on video”, filed on August 3, 2005.

US Patent Application Publication No. 2005/0283279A1, “Method and apparatus for displaying comments on a video display”, filed on June 10, 2005.

上記の先行技術文献においても、動画再生中にコメントを表示する方法が提案されています。特許第4734471号との違いや類似点については、特許の請求項や説明書に記載されている詳細な技術内容を比較することで確認できます。

質疑応答2

それではと、類似点と違いについて尋ねてみました。

<質問2>

先行技術と特許第4734471号との類似点と違いをリストアップして

<回答2>

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AIは弁理士の仕事を奪うのか?

10年~20年後に80%以上の確率で弁理士もAIで代替される!

 

中央公論4月号の特集記事で取り上げられた英オックスフォード大学と野村総研との共同研究の試算ではこのようになっています。

 

弁理士の主要な仕事が、法律や審査基準に基づく決まり事や形式を満たす知識を要求している点に着目して試算されたのでしょう。

 

実は、私は「AIが仕事をやってくれるなら、こんないい時代はない」と密かに思っておりました。元々、AIのベンチャー企業に在籍していたこともあり、自らの仕事をルーティン化して、仕事の質とスピードを上げたいと考え、仕事の手順、計画、時間管理にかなりの労力を割いています。そうした労力の成果をAIに吸収してもらい、私には思いも付かなかったノウハウを生み出してほしいものです。

 

高確率でAI代替ができるというなら、今の内にAIへの代替を前提とした特許事務所を考えてみるのも悪くありません。

 

弁理士業務のAI代替でまず考えたこと

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