中小企業の知的財産活用(4)

 

「うちが、特許権を取って、何に使うんですか?」

経営者の方々でこのようなストレートな疑問を抱いている方も多いと思います。

特許法を学び始めた頃、よく問われる「特許権の本質は何ですか?」という質問と根っこで共通する質問です。

 

法律の試験で、あるいは、法律の専門家として正解とされるのは、「排他権」です。

つまり、自社の技術を模倣されないため、市場を独占するため、ライバルの参入を防ぐ参入障壁の機能が本質である、とするのが特許法の考え方です。

 

排他権と言われても、「うちは、ライバルを追い出したいような市場もないし、自社技術は外からわからないから他社は真似できませんよ」という経営者の方もおられると、思います。特許権をライバルに敵対する「壁」としてしか活用できないと、お考えでしたら、もったいないような気がします。特許権は、ライバルを追い出すためにも使えますが、仲間なってもらうためにも使えます。

 

競合とつながる「橋」としての特許

 

知的財産活用のスタートは、知的財産のとしての技術の「見える化」である、と依然申し上げました。自社内で「見える技術」となった知的財産をどうするか、ということで、社内ノウハウとして自社内で活用するために文書化しておこう、というような具体的行動に結びつきます。ここがすべての始まりでした。

 

さて、社外で活用してもらおうという話です。自社オリジナル技術をライバルに使わせるという、一見、排他権と矛盾する活用です。

 

一番納得しやすいのは、他社に納入する部品に自社の特許技術を使うという当たり前のやり方です。

納入する相手は、その部品は特許があるからと安心して、自社製品の部品として使うことができる訳です。前回紹介した「蛇腹」のナベルであれば、カメラ業界で培い、カメラ部品から抽出した「蛇腹技術」を特許化して、他の業界の会社でも安心して使える「蛇腹」として使ってもらうために特許を活用したのです。

 

では、自社と競合するライバルに使ってもらうとは、どういう場合でしょうか?

 

大阪のシードという会社は、世界初のプラスチック消しゴムを開発し、販売した会社です。プラスチック消しゴムは、当時大ヒットしたそうです。それまでのゴム消しは、紙を削る方式だったので、何度も字を消すと、紙を破ってしまう問題がありました。鉛筆の字を吸着する方式のプラスチック消しゴムの良さのインパクトがどのようなものであったか、想像できます。

 

需要の飛躍的拡大に供給が追い付かなくなったシード社は、どうしたか?

生産設備を拡張して、市場を独占するという手もありましたが、自社のプラスチック消しゴムの特許を適正なライセンス料で開放するという手を打ちました。積極的に自社技術をライバル会社に開放して、拡大する需要に対応するためライバル会社を仲間にしたプラスチック消しゴムのエコシステムを築いたわけです。

 

当時、ライバルとなる大手文具メーカーもプラスチック消しゴムに注目しており、シード社の特許を回避したプラスチック消しゴムを開発が進む危険性を秘めておりました。しかし、シード社側から特許のライセンスを持ちかけることにより、ライバルの特許回避「プラスチック消しゴム」の開発を止める効果がありました。ライバル社の方でも、大きな開発コスト(=リスク)を賭けることなく、一定の売り上げが見込めるプラスチック消しゴムの製造販売が可能なることは、良い提案であった、と思います。

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