前回、「バランスのとり方は、そのアイデアの先行技術、市場性、そして戦略により、変わってきます」と申し上げました。先行技術としては、丸い鉛筆と世界最初の板状鉛筆だけを考慮して、実現性があるならば自由に権利範囲を描ける場合の話をしました。
今の時代では、こんなに自由に権利範囲の境界を引ける技術分野は、非常に少ないです。
先行技術による制約や市場性を考慮して、自社の発明のポジションを「見える化」しないと、文書表現上の上位概念を仕上げても「書いてみるだけ」の特許出願となる可能性があります。
特許の権利範囲の書き方で損をした例ばかりが、ドラマ等で紹介されて、この部分ばかりに意識が向かう発明者も多いです。
そこで、広い特許を狙うための考え方を考察してみたいと思います。
広い特許を狙うための「見える化」
弁理士の仕事として、不用意に下位概念の言葉を使って権利を狭くすることは避けなければいけませんが、その前にアイデアを客観的に見えるようにすることが大切です。
「見える化」といえば、写真機用蛇腹のメーカー ㈱ナベルの例を思い浮かべます。
この会社は、自社の蛇腹を特許化するプロセスで自社の技術を客観的に「見える化」するプロセスにおいて、医療用のCTスキャンに蛇腹が使われていることを見つけたそうです。
写真機用蛇腹は、多くの定番部品がそうであるように基本的機構は確立され(とっくの昔に権利が失効し、自由技術となっている場合もあり)、写真機に使われることにより改良されて、洗練された技術分野に属します。
自社の写真機用蛇腹メーカーとしてのポジションを確保し続けるためには、一歩一歩改良技術を権利化し、自社のコア技術として守っていくことは重要です。しかしながら、目的を絞り込んだアイデアを上位概念化することは、中々困難です。上位概念化するということは、絞り込んだアイデアのピンポイントで発揮する改良効果を発揮しない範囲を含んだり、単に表現を曖昧にしてしまうだけに終わることが多くなるからです。
「自社の蛇腹が、写真機の部品である」としか見えていなかったら、写真機用部品分野の中で、改良アイデアを無理に上位概念化するような労あって、利益の少ない努力に向かいがちになると思います。苦労して上位概念的な6文字熟語を作ってみたり、機能的に表現してみたり、ギリギリのところを突き詰める割には、特許活用の場面での効果を考えると益が少ないものです。
「写真機の部品としての蛇腹」という意識で、蛇腹の改良アイデアを特許化しようとするとき、先行技術の制約から広い特許を出願することが難しいと思います。
しかしながら、蛇腹という技術をオープンな発想で再考し、その技術的素晴らしさを問い直したとき、これって色々なところに使える汎用的な技術であると、広い分野の中でのポジションを見ることができたら、道が拓けます。
改良によって洗練られた蛇腹を医療用の機器に使えるだとか、ロボットの関節部分に使えるなだとか、発想が広がっていきます。そして、医療用機器用として、自社の改良蛇腹を適用することを具体的に考えると、課題が見えてきます。当然ながら、そこにアイデアが必要になり、他分野への横展開のための特許発明が生まれます。
広い特許をより上位概念の言葉で表現することと考えがちですが、ある程度枯れた技術分野では、分野を跨いで他の技術分野に適用させた転用発明の方向で広げるという方法もかなり有効です。