良い特許出願
「丸い鉛筆が使われている世の中で、六角形の断面を持つ鉛筆を発明したら、どのような特許を狙いますか?」
広い特許を説明する例題として有名です。
「六角形の断面を持つ鉛筆」では、勿体ないということで、講師が解説をしていきます。
この発明の本質は、転がらないことにある。だから、「多角形の断面を持つ鉛筆」とか「重心が断面の中心にない鉛筆」とか様々な書き方あります。広い概念で考えましょう、というわけです。
広い概念で特許を取得しておけば、他社の特許回避を防ぐ良い特許になります、という落ちになる話です。
ところで、本当にそうなのでしょうか? 現状販売されている鉛筆のほとんどは、円断面か六角形断面で占められています。
例題のように丸い鉛筆が使われている世の中で「六角形の断面を持つ鉛筆」の特許を持っている会社にとって、ライバルが五角形とか、七角形の鉛筆とか売れそうにない鉛筆製造に投資してもらえる状況はむしろ好ましいようにさえ思えます。ライバルを厳しい状況に誘導するというのも一つの競争戦略ですから。
さらに広い特許は、拒絶や無効になりやすいという問題もあります。
強い特許⇔広い特許
強い特許というのは、審査で拒絶理由を受けたり、特許後に無効になる危険が少ない特許のことを言います。拒絶、無効の理由として、頻出するのが「出願前に先行技術があった」というものです。
「六角形の断面を持つ鉛筆」という今や定番と言えるアイデアを考えた発明者が、広い特許の概念ばかりを考えて「多角形の断面を持つ鉛筆」という広い概念で特許を狙い出願しました。その後、どうなるのでしょうか?
世界最初の鉛筆は、1560年代、イギリスで作られたそうです。それは、黒鉛を板状か棒状にけずり、板にはめ込むというものでした。鉛筆の断面は、長方形です。長方形は多角形ですよね。
無効理由を考えずに「広い特許」を狙った特許出願は、あえなく拒絶となるわけです。
こういう流れで行くと、先行技術調査の大切さを強調したくもなります。しかし、複雑な技術の場合、先行技術調査のコストは高く、調査結果の信頼性にも限界があります。
商品として成立する範囲で少し広めの特許を狙いましょう。鉛筆の例では、「六角形の断面を持つ鉛筆」でも十分に市場を獲得できる良い特許だと思います。「重心が断面の中心にない鉛筆」とか「断面が五角形の鉛筆」によって、「六角形の断面を持つ鉛筆」の市場が減るとしても、取るに足らない量だと思います。
広い特許と強い特許との間で、拒絶や無効のリスクと市場を獲得するチャンスとのバランスが取れた特許が良い特許です。