数年前に熱中したビジネス戦略本「オープン&クローズ戦略(小川紘一著)」を再読しています。きっかけは、「情報経済の鉄則(カール・シャピロ他著)」という1990年代の戦略本を手に取ったことでした。
2つの本で語られる知的財産管理の戦略は、ほぼ共通しています。
<攻守をバランスさせての収益最大化戦略>
自社のコア技術を守るための守りの知財管理手法と、自社のコア技術を普及させるための攻めの知財管理手法とをバランスさせて行うことで市場から得る利益を最大化するという戦略です。
攻めの知財管理手法を使うと、その商品の市場は成長するが、一方で商品のコモディティ化が進み、利益率が低減する。
守りの知財管理手法を使うと、その商品の市場成長が遅れるが、一方で競合商品を抑え、利益率を高く維持できる。
だから、2つの手法をミックスした利益最大化パターンを作りましょうと書かれています。ここまでは、異論はないし、日々の仕事に生かしたいと思いますが、冷静に考えると当たり前の手法です。
<解釈次第の事例>
「情報経済の鉄則」でIBMのCPU複数調達によるコモディティ化失敗の例が取り上げられているのですが、「オープン&クローズ戦略」で同じ事例が、インテルの成功例として取り上げられています。この成功例の記述は、読書体験という観点からは魅力的部分ですが、無批判に受け入れると、実務家にとってはミスリーディングを招く危険な部分だと思います。起業家であったら、うっかりインテルを目指したくなる部分でしょう。
CPUという守りの知財管理で固めた商品を、攻めの知財管理で固めたPCIバスでパソコン本体をコモディディ化して、インテルCPUの運搬車に仕立て上げて世界市場に普及させた成功例です。パソコン全体ではコモディティ化する一方でCPUの値段は低下していませんでした。
美しい完成形ですが、こうすれば成功できるというパターンとしてクライアント様に紹介できるのだろうか?
当時、元祖PCであるIBMも別規格のバスを発表し、対抗手段を取っておりました。AMDも育ってきておりました。CPUがコモディティ化する世界もあり得たように思えます。
インテルのCPU+PCIバスで製造されたパソコンが、IBMなどからのブランド品に劣っていたら、インテルのオープン&クローズ戦略は、機能しなかったでしょう。
パソコン本体が差別化を決するコア領域となって、CPUは一つの部品に過ぎず、インテルを筆頭に複数のメーカーがしのぎを削る世界もあり得たのでは?などと色々に想像されます。
オープン&クローズ戦略の理論により予め設計されたパターンよる成功と解釈するのもよいのですが、インテルが、CPU+PCIバスで十分に高性能なパソコンを作れる環境を提供できる圧倒的に優れた技術力があって、その環境が世界中の後発パソコンメーカーを引きつけ、後発パソコンメーカーであってもインテルインサイドであれば、受け入れるユーザーがいたから成功したと解釈してもよいと思います。
* 当時の私の個人的感想ですが、IBMパソコンはそれなりにブランド化できていたように思います。しかし、微妙にコスパに劣っていたとも感じていました。パソコンの性能=構成のCPU=インテルCPUという刷り込みはかなり効いていましたので、インテルCPUを使っているノンブランドモデルや自作PCで十分に満足できていました。