前回、良い特許とは「広い特許と強い特許との間で、拒絶や無効のリスクと市場を獲得するチャンスとのバランスが取れた特許」と申し上げました。

 

丸い鉛筆しか市場にない時に、鉛筆が転がって困ると考えた発明者が「六角形の鉛筆」の鉛筆を発明した時に、どういう風にバランスをとっていくのか、考えてみたいと思います。

 

 リスクとチャンスのバランスの取れた特許

まず、発明者が考えるべきことは、自分の発明の業界における相対的ポジションです。

鉛筆業界で「六角形の断面」を発明したわけです。そして、発明の切っ掛けとなった問題は、「鉛筆が転がる」です。

 

鉛筆は、500年近い長い歴史を持つ製品です。いろいろな経緯の中で、その時点で「丸い断面」の鉛筆があって、「丸くて転がる鉛筆」が市場に行き渡っている、と考えられます。

 

ステップ1:アイデアを広げる

 

「転がらない」という課題を設定して、いろいろなアイデアを考えるステップは大切だと思います。どんどん頭の中で妄想が広がって、「断面の重心が真ん中にない鉛筆」とか「外周がギザギザしている鉛筆」とかになってくると「?」と思わなければいけません。

 

ステップ2:歴史を考える=先行技術調査

 

妄想を広げたところで、鉛筆の歴史を振り返ってみることが大切です。世界最初の鉛筆は、そもそも転がらない板状だったということにも気づけるかもしれません。

 

つまり、先行技術調査です。

鉛筆の断面について、同じように考えた先人がいて、すでに作られたり、発表されていたりするかもしれません。特許庁の外郭団体が運営している特許検索サイトを使って、過去の特許文献を調査すると、先人が何をしてきたか、分かります。

*特許情報プラットホーム

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage

 

ステップ3:市場性を考える

 

断面の重心は、真ん中にないと、鉛筆を持った時の感触はどうなんでしょう? テストした方がよさそうです。外周がギザギザしている鉛筆は、明らかに持ちにくい鉛筆です。売れそうな鉛筆は、正6角形とか、正8角形辺りかな~と、漠然と考えるようになるとが正しい認識です。

 

ステップ4:特許出願戦略を考える。

 

初めての特許出願でいきなり戦略と言われて・・・と戸惑う方が多いと思いますが、特許出願で何を求めるのか、ということを考えて出願することです。

 

この鉛筆発明は、どういう広がりあるか予測がつかないから、できる限り広い概念で特許を取得しよう、というのも3つのステップを踏んだ上で決断するなら、それも戦略です。

 

市場性のありそうなアイデアをカバーしておけば、他社の特許回避を防ぐ良い特許になるだろうから、「5以上の頂点を有する正多角形断面を有する鉛筆」で権利を狙おう。これも戦略です。

 

我が社は、正六角形断面の鉛筆を製造・販売する事業戦略を取ることに決めて、正3角形とか、正5角形とかは、特許だけ抑えて他社にライセンスしたり、売却する攻めの特許として使おう。このような考えで、「正3角形」や「正5角形」を分けて取引できるように出願するのも、出願戦略です。

 

*攻めの特許:他社との取引に使うことのできる特許である。自社のコア技術の周辺に位置する技術であり、自社を差別化するために必須とはいえないものに関する特許。

 

一般論としてバランスの取れた特許が良いのですが、バランスのとり方は、そのアイデアの先行技術、市場性、そして戦略により、変わってきます。

従って、特許出願だけを見ると、バランスが取れていないようでも、アイデアを囲む環境や戦略の取り方にマッチした「バランス」が取れている場合もあります。

 

 

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