知的財産法の保護対象(2)特許法

 

前回は、特許法の保護対象ではないということを理由に拒絶の憂き目に遭うコンピュータシステム発明、特にビジネスモデル特許の話でした。今回は、その拒絶理由を回避するために、どのようにすれば、よいのか、という話です。

 

今の特許審査基準から「発明」に該当しないものとされる「自然法則を利用していないもの」の説明を抜粋すると、以下のとおりです。

 

<自然法則を利用しないもの>

請求項に係る発明が、自然法則以外の法則(例えば、経済法則)、人為的な取決め(例えば、ゲームのルールそれ自体)、数学上の公式、人間の精神活動に当たるとき、あるいはこれらのみを利用しているとき(例えば、ビジネスを行う方法それ自体)は、その発明は、自然法則を利用したものとはいえず、「発明」に該当しない。

逆に、発明を特定するための事項に自然法則を利用していない部分があっても、請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していると判断されるときは、その発明は、自然法則を利用したものとなる。

 

ここで、「ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」場合、当該ソフトウエアは「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるというのが、特許庁の見解です。私達弁理士は、「ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」いることを主張する根拠になる事項を、予め特許出願書類から抜き出して、特許庁審査官の拒絶理由に打ち勝つ主張を組み立てるところで腕が試されてきました。

 

最近では、ベテラン弁理士であれば、「自然法則を利用した技術思想の創作とはいえない」などと言わせない出願書類の書き方をしていると思われます。

 

前に述べた特許審査基準では、その書き方をもう少し突っ込んで述べています。

「ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」とは、ソフトウエアがコンピュータに読み込まれることにより、ソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段によって、使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより、使用目的に応じた特有の情報処理装置(機械)又はその動作方法が構築されることをいう。

そして、上記使用目的に応じた特有の情報処理装置(機械)又はその動作方法は「自然法則を利用した技術的思想の創作」ということができるから、「ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」場合には、当該ソフトウエアは「自然法則を利用した技術的思想の創作」である。

 

人工知能が知的財産法に与えるインパクト

 

さて、ビジネスモデル特許の問題は、解決済みとしても、人工知能のように急速に進化して特許法を含む知的財産法の想定を超えるような効果を発揮するようになった場合、未解決の問題を新たに生みだすと予想されます。

例えば、人工知能を組み込んだロボットを家政婦さんとして派遣できるように改善した場合、どうでしょうか?今までにない優秀な家政婦さんの仕事ができるロボットで、そのロボット派遣会社は独自のノウハウを投入しています。そのノウハウを投入して改善したロボットは、知的財産法の保護対象になるのでしょうか?どのように特許出願書類を書けば、特許を取れるのでしょうか?特許出願の審査において、混乱が生じるかもしれません。さらには、特許の活用の場面で有効でない、ブラックボックス化すべき発明についても、具体的事案ごとに考え抜かねばなりません。

 

小説や音楽を創作できるロボットを開発してしまったら、その創作物は保護されるのでしょうか?

次回は、近い将来に予想される知的財産法の保護対象の問題を、著作権法も含めて、検討する予定です。

 

 

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