知的財産法の保護対象(3)著作権法

 

前回は、特許法の保護対象ではないということを理由で拒絶の憂き目に遭っていたビジネスモデル特許も、定番の対応があり、特許として保護されうるということを書きました。この定番の対応は、人工知能、特に人と同じように考えるような汎用人工知能の発明についても、ある程度有効になるだろうと考えています。まー、実務家としては、この問題を掘り下げるのは、具体的事案が現れてからでもよいでしょう。というか、具体的事案への積み重ねによって、対応の方法が固まっていくものでしょう。

 

さて今回は、著作権法の保護対象についての話を、人工知能による創作という問題から述べてみたいと思います。

 

 著作物の定義

 

現行の著作権法において、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」であると、定義されています(著作権法2条1項1号)。

 

後半の「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」というところは、人工知能の作品でも人の作品でも同様ですが、前半の「思想又は感情を創作的に表現したもの」というところが問題になり、3つの要件があります。

 

第1に、「思想又は感情」を表現したものでなければなりません。単なるデータ、山の高さのデータとかを著作物から除外されます。また、著作権法における「感情又は感情」は、人間の思想又は感情を指します。立法過程では、チンパンジーとかの動物の思想や感情を除外するものでした。

一部の研究者が目指しているような人と同じような知能を実現した人工知能を組み込んだ創作マシンが生成した作品はどうなるのでしょうか? 「マシンには、思想も感情もない」の一言で片付けられない時が来るかもしれません。人工知能の作品を法の保護対象から除外する根拠は、「人」の感情又は表現ではないという点だけです。

 

第2に、「創作的」に表現したものでなければなりません。作品はクリエーティブなものでなければならない、という考え方が採用されています。立法過程において、美術作品を単に忠実に機械的に複製した模写・写真、キャッチフレーズ・スローガンなどを除外するものでした。

第3に、「表現したもの」でなければなりません。「表現」であることが必要で背景にあるアイデア、理論、キャラクターと言われるもの自体は、著作物足り得ないというものです。

 

第2、第3の要件において、作品の生成過程についての制限はないようです。すると、作品がクリエーティブであればよいと言えそうです。

 

研究者が求める人間スペックの人工知能が、創作をするようになったら、創作の主体が「人」であるか、否かで著作権法の保護対象から除外されるという現行法の運用について、大きな議論になるかもしれません。

 

さらに別の条項で、保護を受ける著作物とは「日本国民(わが国の法令に基づいて設立された法人及び国内に主たる事務所を有する法人を含む。以下同じ。)の著作物」であると規定されています(同法6条1号)。

 

もし今、小説や音楽を創作できるロボットを開発してしまった発明者から知的財産保護の相談を受けたら、あれこれ思案の末に、発明については秘匿して、ロボットくんの作品は自己作品として発表することをお勧めするかもしれません。

この問題は、知的財産法を超える問題に及びます。ロボットの権利と責任の問題です。最近問題視されている自動運転自動車の事故の責任の所在が議論されていますが、ロボットの権利の問題にいずれ関心が及ぶ時が来るのではないでしょうか。

そして、ここで想定するような技術進歩と一定のタイムラグを置いて法制度が改革され、キャッチアップしていくはずです。そうした法律の変貌を先読みしていくことも、知財戦略に欠かせないと考えています。

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